旅で出会った人たち④
北海道富良野のペンションに泊まった時のこと
ペンションの庭からは、日の出公園のラベンダー園が見えた。
そのペンションは家族経営のこじんまりした宿なので、風呂は入れ替え制だった。
私は朝食前にお風呂に入ろうと、風呂の前のホワイトボードに名前と時間を書いて服を脱ぎ始めた。
すると、いきなりお歳を召した2人の女性がドアを開け
「あら、スリッパがある!」
「誰か入ってるんじゃない?」
と話し始めた。
風呂の入り方はチェックインの時に説明を受けているはずだし・・・。
この人たちはホワイトボードを見なかったのだろうか。
幸い彼女たちと私の間には暖簾(のれん)があったので、私の裸は見られなかったが、これが男女逆の立場だったら大事件に発展したことだろう。
私のスリッパに気が付いたのだから、すぐに出ていくだろうと思っていたら
「あの~、私たち早く出るから・・・」
ん?
だからどうした?
服を脱ぎ始めた私を差し置いて"先に入らせろ"と?
なんて図々しい人たちなんだ。
自分の都合ばかりで、先に入っている人のことなんか何とも思っていない。
私は「ホワイトボードに名前が書いてあるのを見なかったんですか?!」
と言いたかったが、グッと我慢した。
「先に入らせてもらえるかなぁ?」
ついに本音が出た!!!
私は旅行中なので嫌な思いはしたくないし、何よりトラブルは避けたいと思い、必死になって無難な言葉を探した。
そこで
「もう服脱いじゃったんですけど!」というと
急に彼女らはふてくされた態度で
「もう脱いじゃったんだってさ!」
「なんだ服脱いじゃったの?」
「え~、じゃあ先に入れないじゃない」
「入れないわよねぇ」
「なんなのよねぇ」
と話しながら不満そうに出て行った。
私は
「おまえらなぁ ふざけるのもいい加減にしろ!」
と叫ぶ勇気もなく、じっと我慢していた。
チェックアウト後、妻に風呂事件の一部始終を話すと、妻は
腹を抱えて笑っていた。
それ以来、私は旅行でペンションを利用することはなくなった。
(本当にあった話です!)