ためらわない,迷わない

仕事を辞めた。そして自由人になった・・・。

「人間の空」 上・下

航空関係の書物というと、航空機事故を検証した「マッハの恐怖」やその他専門書が多く、ラジコン飛行機マニアとしても敷居が高いところもあるが、この「人間の空」は小説なので気軽に楽しみながら読める。

タイトルの副題として航空サスペンスと書かれている。


この小説は航空業界の裏側を克明に描いている。
何人かの主人公が順次登場して、それぞれ自分自身のストーリーが綴られている。


その内容が航空業界の視点で見ると、あまりにも詳しくあまりにも具体的なので驚かされたのだが、この本の著者である福本和也氏は当時現役のパイロットだと聞いて納得した。


いくつかのストーリーの中の一部をご紹介する。


敏腕パイロットである主人公は、大雨の中YS-11の着陸を試みるが機体をオーバーランさせてしまい刑事責任を問われる。


なんとか会社には残れることは出来たが、パイロットには復帰出来ず、慣れない営業職に配置転換となる。


彼は営業の成績を上げ、会社で認められたい一心で元妻のコネを頼るが、元妻の無慈悲な態度に思わず殺人を犯してしまう。


主人公は旅客機を使って地方に逃げようとするのだが、その飛行機がハイジャックに会い、機長、副操縦士ともに操縦が出来なくなる。


「お客様の中でパイロットの方いませんか?」とアナウンスが機内に入り、乗客は騒然とする。


主人公は、ここで名乗り出ると自分が捕まってしまう。
しかし、多くの乗客の命を自分の都合で犠牲にしても良いものだろうかと葛藤する。


やがて主人公は操縦桿を握ることを決意する。


以前、操縦していたYS-11に比べてこの飛行機は遥かに大きい。
まして事故の影響で平衡感覚に支障をきたしているので、オートパイロトで降ろすしかない。


悪天候の中、機体は滑走路に進入する。
そして、そこには1台のパトカーが待っていたのだ。



初版が昭和59年といささか古いのだが、内容的には充分読み応えがある小説なので、図書館などで見つけたら是非読んで欲しい。


〔追記〕
この小説の話はせずに、定年退職したあるキャプテンに質問してみました。
「もし、今後、突然操縦桿を握る機会に遭遇したら、あなたは操縦しますか?」と。


彼の答えは『できれば操縦したくない』でした。
理由ははっきりとは言いませんでしたが、それだけラインパイロットの仕事は重責を担っているということでしょう。
まぁ、人それぞれでしょうけどね。

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