コンサートホールの舞台裏② ~ちょっと浜松まで~
私がまだ30代の頃、関係職員と一緒にコンサートホールの開館準備をしていました。
ある日、私のボス(館長)が「明日、ちょっと浜松まで行ってくる」といって休みを取りました。
私はあまり気にもとめずに、「うなぎでも食べに行ったのかなぁ」くらいの気持ちでいました。
周りの職員によると、ボスは著名なピアニストと一緒にピアノ工場に行き、当ホールで購入するピアノを選んでいるのではないか、という話でした。
翌々日、ボスはにこやかな顔で「ピアノ決めて来たよ!」と話してくれました。
ピアニストの方に何台も何台も弾いてもらって、これが良いと思ったピアノにその場でサインしてもらったらしい。
まるでスーパーで野菜を買いに行くような気分でピアノを買ってきてしまうボスに、まだ若かった私は大変驚いてしまいました。
(この人、どこまで大物なの?!)
いくら何でも著名なピアニストが一日がかりで浜松まで付き合ってくれて、片っ端からピアノを弾いて選んでくれるなんて。
(人脈あり過ぎでしょ?!)
ヤマハだって、いくら自治体がお客だからってウン千万円のフルコンサートグランドピアノを「これにします!」といったからってサインさせちゃうってアリなの?。
私の頭の中は”?マーク”で一杯になりました。
それから何日か経って、大きなトラックに乗って当館のピアノが届きました。
大道具搬入口を開けると、ピアノがクレーンに吊るされて舞台に運ばれます。
舞台の中央でピアノが組み立てられると、専属の調律師さんが最終調整に入ります。
舞台係はピアノと運搬台との接触部分やピアノの蓋の外し方などのレクチャーを受けています。
私たち音響係と照明係は
「あのピアノ、家が買えるくらいの値段らしいよ」
「やべ~、スゲーの来ちゃったなぁ」
「万が一傷つけたら弁償できないよね、そしたら俺たち首かな?」
などと勝手に話をしていました。
それから何日かして、ふと例の話を思い出しました。
そして恐るおそるピアノの蓋を開けてみると・・・。
すると、そこには深沢亮子さんのサインが書かれていました。