ためらわない,迷わない

仕事を辞めた。そして自由人になった・・・。

コンサートホールの舞台裏① ~猫踏んじゃった!~

今さらですが、私は元地方公務員でした。


今振り返ると、そのほとんどが単調な仕事だったり、やるせない仕事だったり、恐ろしい仕事でしたが、そんな中でも唯一楽しかった仕事コンサートホールの仕事でした。

コンサートホールには舞台係、音響係、照明係があって、基本この3名が1チームとなって舞台を運営します。


今日はピアノコンサート
指定はスタインウェイ(ドイツ製)なのでピアノ庫から運びます。


ピアノ自体は専用の運搬車に乗せて運ぶので一人でも運べますが、なにせフルコンサートピアノは全長が長いので、鼻先にもう一人付いてもらいます。


セリを降ろしてピアノを舞台に上げるのですが、たまに舞台から人が降ってくる(当館ではありません)ので、セリの周囲にロープを張り、人を配置します。


スタインウェイが舞台に置かれると、舞台係は音響反射板を降ろします。
照明係はピアノの鍵盤に黒鍵の影が出ないように照明を調整します。


私、音響係は影アナのマイクやMCのマイクを仕込んだり、楽屋やロビーにエアモニを送ります。


準備が終わると他の職員は事務室へと引き上げて行きました。


私はというと・・・誰もいないし・・・ピアノ弾いちゃおうかなぁ悪魔の囁きが聞こえてきました。


とりあえず地明かりだけ点けて、演奏曲は「猫踏んじゃった」


私はピアノを習った経験もないド素人なので「猫踏んじゃった」しか弾けません。


誰もいないコンサートホールで、スタインウェイを使って、ド素人が奏でる「猫踏んじゃった」。


ある意味、こんな贅沢なシチュエーションはありません。


スタインウェイと「猫踏んじゃった」の作曲家に敬意を払って、曲の最後はていねいにリタルダント、そしてフェルマータ―。


すると突然、パチパチパチと背後から拍手が!


振り向くと調律師のAさんがいました。


『迷い人さん、お上手ですね!』


「えっ Aさん?!、小屋入りは14時じゃなかったんですか?_」


『ええ、今日は道が空いていたから、早く着いちゃいました』


『舞台の方が弾かれるって、珍しいですよね』


「も~勘弁してくださいよ~!」

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