ためらわない,迷わない

仕事を辞めた。そして自由人になった・・・。

阿武町4630万円誤送金問題について

お伊勢参りの話を書いていたのだが、ここに来て阿武町の4630万円誤送金問題がマスコミにも取り上げられてきたので、それについて私の見解を述べたいと思う。


【町長の会見】
ニュースで町長の会見を見たが、容疑者に対する怒りと憎しみの感情がにじみ出ていた。
が、私たち一般人から見たら
容疑者を憎むよりも、まずは自分の組織の事務能力の未熟さを悔やむべき
だと感じてしまうのだ。
周囲のブレーンの中に会見のやり方についてアドバイスをする者はいなかったのだろうか。


【町役場の動き】
町として大事件が起きてしまったのだが、それに関わり過ぎて本来の受給者への給付金の支給を遅らせる訳にはいかない。
ここは予備費から予算を充当して他の受給者への給付金の支給を急がなければならない。
そのためには議会の承認が必要なのだが
「お金を取られちゃったので予備費から支払ってよいですか? 」
では議会は納得しない。
当然、容疑者からの資金回収方針と職員の処分、再発防止策の提案がセットとなる。
これは町にとって極めて困難な局面だ。


【担当職員への風あたり】
このような不祥事が発生すると、担当職員⇒担当係長⇒担当課長⇒担当部長⇒担当局長⇒副町長⇒町長と、組織の縦の系列に沿って芋づる式に責任を問われる
容疑者が弁済能力が無かったり、弁済が困難で長期化するとなると「職員が弁済しろ!」という方向に話が向く。
これを回避するために全国市町村共済会には市町村職員損害賠償責任保険という制度をがある。
1口1000万円、最高10口限度額1億円だったと思う。
私も肩書に「長」が付くようになってから定年退職までの間、ずっとこの保険に加入していた。
阿武町の職員もこの保険のことは承知していて誰かが加入しているはずなので、この制度を活用するのが現実的な解決策だと思う。


【容疑者は】
「弁済しません」というよりも「お金を返したいんですけど返すお金が無いんです~」というスタンスの方が世間的にも司法に対しても風当たりは少なくなる。
たぶん弁護士がそのように指導したのだと思う。
本人は「全額ネットカジノで使った」と言っているが、マネーロンダリングを繰り返して何処か知らない土地の地下深くに札束が埋まっているのかもしれない。


【検察側は】
電子計算機使用詐欺罪で立件し、執行猶予無し3年の懲役を求刑するという話を聞いたがこれも難しいと思う。
なぜなら容疑者は自ら作為的に町役場から4630万円を騙し取った訳ではない。
何もしないで家にいたら、気が付いたら自分の口座に大金が勝手に振り込まれていたのだ。
実際に裁判をやってみないと分からないが、懲役1年、執行猶予3年なんて判決が出た日には容疑者の勝ちになってしまう。


【民事訴訟では】
町は4630万円+金利+訴訟費用を請求するらしいが、これも極めて困難だ。
何故ならこの容疑者は24歳で無職だから他に金融資産を持っているとは考えにくい。
これだけ有名になってしまえば、今後社会的に信用のある企業に就職するのは困難になる。
となると給与制ではない出来高払いの日雇い個人事業主扱いとなってしまい、給与の差し押さえは難しいし、そもそも給与制ではないかもしれない。
24歳の無職であれば不動産は所持していないだろう。あっても親名義とか他人名義ならば差し押さえ出来ない。
自動車は初度登録以降6年経っていれば差し押さえる価値はないし、友人や恋人名義で購入すれば差し押さえ出来ない。


という訳で、残念だが容疑者の逃げ切りになる公算が強い。
これを法律用語(?)でいうと「無い袖は振れない」ということになる。


しかし、「容疑者のひとり勝ちか?!」というとそうではない。
この容疑者は24歳だから、生きていくためにはあと40年は働き続けることになる。
サラリーマンの生涯賃金は2億~3憶円と言われているから、少なく見積もっても2憶円は稼がなくてはならない。
4630万円では足りないのだ。
この先、アルバイトやアンダーグランドな仕事で食いつないでいったとしても、まともな年金も積み立てられないから老後破綻は目に見えている。
よって「稚拙な判断だった」と言わざるを得ない。


【今後の対策は】
まず、町はマニュアル(事務手順書)を整備すること。そしてそれを必ず守ることが重要だ。


昔からある方法として「読み合わせ」がある。
1人が対象者リストの名前、住所、金額等を読み上げて、もう一人がフロッピーディスクに入力したデータのリストを確認する。


例えば、旅客機の機長と副操縦士でさえ行先の座標をコンピュータに入力する際、どちらかが読み上げ、他方が入力し、入力後に双方で確認し合っている。


単純で古めかしい作業に見えるが実はこれが一番シンプルで確実な方法である。


【最後に】
町議会議員も町の幹部たちもあまり担当者を責めないで欲しい。
職員も生身の人間だから、あまり責められると精神疾患になったり、下手をすれば自殺してしまうからだ。
もし職員に自殺者が出たら、それこそ町の職員のモチベーションは地に落ち、組織は空転する。
更には遺族からの損害賠償請求訴訟が加わるから、町は蜂の巣を突いた状態になってしまう。
今までここぞと責めに走っていた町議会は手のひらを反すように"悪者探し"に転じるだろう。


果たしてそんな組織は健全だといえるか? 
そんな組織に生きがいを感じられるだろうか?


同業者のOBとして、公務員責任賠償保険が適用されてることを切に願っている。

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