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心に残る映画⑦「瀬戸内少年野球団」

先日、テレビで終戦記念日の特別番組を見ていた時に、ふと思い出して再び見直した映画 「瀬戸内少年野球団」をご紹介します。
戦争映画といえば「プライベートライアン」や「二百三高地」のように、敵国同士の兵隊たちが互いにぶつかり合い、血で血を洗う肉弾戦を描写した作品もあるが、この作品は戦後、日本が進駐軍に占領され、荒んだ日本人の心と未来への希望をテーマとしている。


〔概要〕
元は淡路島出身の阿久悠が執筆した自叙伝を映画化したもの。
1984年に公開され、制作にはもちろん「YOUの会」が関わる。
監督は篠田正治(岩下志麻の夫)、キャストには夏目雅子、郷ひろみ、渡辺謙など、そうそうたるメンバーがそろっている。


〔ストーリー〕
舞台は終戦直後の淡路島。
島の国民学校にも進駐軍による民主化の波が押し寄せ、教科書の不適切とされる内容は次々と墨を塗って封印される。

また、衛生上の問題から頭にはDDTがかけられるなど、次第に子どもたちの気持ちは沈んでしまう。


国民学校の教師の駒子(夏目雅子)は、夫の中井正夫(郷ひろみ)が戦死したという知らせを受けて失意のどん底にいるが、正夫の弟鉄夫(渡辺謙)の強引な求愛に屈してしまう。


夫の正夫は片足を無くてしまったが、ひっそりと島の神社に身を隠していたところを島の子ども達に見つけられる。
正夫は子どもたちに野球のボールを託し、「このボールを駒子先生に渡してほしい」と頼んだ。


駒子は正夫に会いたいが、鉄夫と過ちを犯してしまったため会うわけにもいかず「お会いできません」という内容の手紙を子どもたちに託す。


失意の正夫は淡路島を離れて友人の伝手で金毘羅山の社務所に身を置くことを決意する。


一方、海軍提督だった波多野(伊丹十三)と、その娘武女(佐倉しおり)が、この島にやってくる。

波多野提督はA級戦犯として処罰されるであろうことを覚悟して、余生をこの島で過ごそうと決めたのだ。
清楚で聡明な武女は、この島の子どもたちと直ぐに打ち解けて、級長の竜太(山内圭哉)や三郎(大森嘉之)と仲良くなる。


教室内に三郎の兄(島田伸介)がばら撒いたアメリカのキャンデーに生徒たちは群がる。


子どもたちの心が荒んでいくのを見かねた駒子先生は、生徒たちに「私たち、野球をやりましょう」と提案する。


竜太と武女の計らいにより、駒子と正夫は金毘羅山で再会することになる。


駒子と正夫の再会。最初はぎこちなかった二人だったが互いの思いを確認し合う。


抱き合う駒子と正夫。
正夫の松葉づえが金毘羅山の階段をカラカラと音を立てて落ちていく。
私の一番好きなシーンだ。

島の子どもたちが野球の練習をしているのを知った正夫は、居ても立ってもいられなくなり、島に帰ることを決意する。


正夫の発案により島の子どもたちの「江坂タイガース」が結成された。
最初は弱かったチームだったが、正夫たちの指導により徐々に実力をつけていった。


ある日、進駐軍から野球の試合の誘いを受ける。
これにより進駐軍野球チームと江坂タイガースが試合をすることになる。
子どもたちはアルバイトをして健康ボール、バット、グローブを購入する。
また、誰かも分からぬ人からユニホームも寄付され、この試合は村の一大イベントに昇格していった。


そんな中、武女の父波多野提督がシンガポールで処刑されたという知らせが入る。
気丈な武女は、それでも進駐軍との試合に臨む決意をする。


試合当日、互いのチームの得点が拮抗する。村中の人が応援する中で武女がヒットを放つ。
果たしてそのボールの行方は・・・。


〔感想〕
今から36年も前の映画だから、とにかく出演者が若い。
夏目雅子が若いのは当然のことだが、渡辺謙も郷ひろみも佐倉しおりも岩下志麻も伊丹十三も島田伸介も、出てくる俳優すべてが若い。
本当に見ていて懐かしくなってくる。


正夫と駒子の再会、正夫が無事だと分かって荒れる鉄夫、A級戦犯にされる波多野提督と娘の武女、互いに惹かれ合う竜太と武女、何度も男に騙されても懲りない猫屋の女将トメ、それぞれの人生を淡々と物語っている。


私は戦争体験はないが、昔は家が絶えないように息子が戦死すると未亡人なった嫁を他の兄弟と結婚させたとか、進駐軍にDDTを掛けられたとか、闇米は憲兵に没収されたとか、お酒が無かったのでアルコールを水で薄めて飲んていだとか、よく母親から聞かされていたエピソードが映画の中の所々に出てくるので、とても興味深かった。


さて、大変気になる野球の試合の結果はどうなったのか。
私が映画監督だったら・・・。


進駐軍が勝ったら当たり前の結果となってしまう。
なにしろ野球はアメリカのスポーツだし、いくら甲子園出身の正夫が指導したとしても江坂タイガースは所詮にわか仕込みのチームなのだ。


逆に江坂タイガースを勝たせたらストーリーが出来過ぎになってしまう。
「そんな上手い話はないだろう。やっぱり映画は映画だね」という評価になってしまう。


その辺のことから、この映画は絶妙な終わり方をしている。
結果は見てのお楽しみだが、波多野提督の魂が乗り移ったとされる名犬(?)が素晴らしい演技をする。


この作品は不幸にも夏目雅子の遺作となってしまったが、何処となく懐かしくて安心して見ていられる映画だ。


毎度同じことをいうようだがTSUTAYAでDVDがレンタルされているので、皆さんも是非見てください。

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