ためらわない,迷わない

仕事を辞めた。そして自由人になった・・・。

心に残る映画⑥「蒲田行進曲」

いつも洋画のことばかり書いているので、たまには邦画もご紹介します。


今回、ご紹介する映画はこれ。
「蒲田行進曲」
私が社会人になった翌年に見た映画。
あの頃は、とにかく破天荒な性格の主人公に周囲の人々を振り回され、笑いあり涙ありの人情喜劇だと思っていたのだが、今になってDVDで見直したところ、ひとつひとつのシーンやセリフに大事な意味があるのに気付き、映画の楽しさや素晴らしさを再発見させてくれた。


〔概要〕
1982年、松竹配給による映画作品。監督は深作欣二、原作はつかこうへいの戯曲。舞台演劇を映画化した有名な作品で第86回直木賞を受賞している。
ここは映画の撮影所、人気スターと大部屋俳優との友情(主従関係?)と元人気女優との三角関係をコミカルに、時にはシリアスに描く。


〔ストーリー〕
場所は蒲田撮影所。「新選組」の副長、土方歳三を演じる倉岡銀四郎(風間杜夫)こと銀ちゃんは、我がままで、身勝手で、女性にだらしないことから、いつも周囲の人々を振り回している。そんな銀ちゃんも自分の人気に陰りが出てきて、役を降ろされるのではないかという不安を抱えている。

スター俳優倉岡銀四郎(中央:風間杜夫)と大部屋俳優(周辺)の上下関係は絶対だ。スター俳優に逆らうと、大部屋俳優のヤス(左端:平田満)たちは仕事がもらえなくなるからだ。

銀四郎と取巻きの大部屋俳優たちは主従関係というか、もはや奴隷に近い。


ある日、銀四郎はヤスのボロアパートを訪ねる。銀四郎は恋人だった小夏(松坂慶子)をヤスに押し付けて、自分は若い女の子と付き合う算段をしていた。しかも、小夏のお腹には銀四郎の赤ちゃんが宿っているにもかかわらずだ。


「おいヤス! 小夏の腹には俺の子がいるんだが、会社は次の映画で社運をかけているから、俺は身辺整理しなければならない。お前が引き取ってくれ!」と、おかしな屁理屈を付けて小夏をヤスに押し付ける。

銀四郎(中央:風間杜夫)、小夏(右:松坂慶子)、ヤス(左:平田満)のおかしな関係が始まる。


今は落ちぶれてしまった元人気女優の小夏と大部屋俳優のヤスとの同棲生活が始まる。
最初は銀四郎への思いが経ちきれない小夏だったが、次第にヤスの誠心誠意の思いを受け止め、ふたりは結婚することになる。

小夏を連れて故郷に帰るヤス。故郷の人たちは村が生んだ映画スターということで二人を歓迎をする。
しかし、ヤスの母親は小夏のお腹の子がヤスの子ではないことを見抜いてしまう。


最近、人気が落ちてきて監督にも他の俳優にも相手にされないことに苛立ちを見せる銀四郎。そこで「新選組」のクライマックス、池田屋の階段落ちをやれば再び自分の人気が取り戻せると考え、ヤスに階段落ちを持ちかける。

階段落ち。それは39段、高低差10m以上の巨大な階段で「新選組」の土方歳三に切られた浪人が転げ落ちるシーンだ。その階段を落ちると、良くて半身不随、時には死ぬことも覚悟しなければならない。
ヤスは銀四郎との友情と、自分が一瞬でもいいから大部屋からスター並みの扱いを受けたいという思いで階段落ちを引き受けてしまう。


それを聞いた小夏は烈火のごとく怒り、泣きながらヤスを引き留めようとするが、ヤスの気持ちは変わらない。


小雪の降る中、身重の小夏は撮影所の外から「お願い! やめて!」と声を振り絞って叫びながら、その場に倒れてしまう。
しかし、無情にも監督から「スタート!」の号令がかかるのだった。


〔感想〕
一生大部屋俳優で終わるのか・・・。
一瞬でもいいからスポットライトを浴びてみたいという希望と銀四郎を再びスターの座に着かせてあげたいという気持ちで撮影に臨むヤス。
一方、家族が出来てささやかな幸せを守っていきたいと思う小夏。ふたりの気持ちのズレから激しい感情がぶつかり合う。


そしてエンディングに突入する。
ここは病院のベット。遠くで赤ちゃんの泣き声が聞こえる。麻酔から覚めた小夏は、怖くて目を開けられない。しかし勇気を持って眼を開けると、そこには包帯だらけのヤスがかわいい女の子の赤ちゃんを抱いていたのだ。
私は、不覚にもこのシーンで号泣してしまった。


しかし、ここから深作欣二監督のタネ明かしが始まる。
病院のセットが外され、多くの出演者が小夏に駆け寄り花束を渡す。いわゆる映画が完成した時のクランクアップのシーンだ。
私はこのシーンは深作監督のやさしさだと思う。
あのまま終わってしまったら、あまりにも悲しくてせつない映画になってしまうではないか。


この映画の最初に松坂慶子の声で次のようなナレーションが入っています。
「映画の撮影所という所は、本当に奇妙で不思議な世界です。偽りの愛さえも本物の愛にすり替えてしまうようなこの世界では、昼を夜にすることなど朝飯前の出来事なのでした。」
このナレーションが伏線になっていて、最後のセットを解体するシーンで見事に回収されています。
「映画って、とても不思議で楽しいものなんだよ!」と語っている作品でした。


新型コロナウイルスの関係で、今は映画館では見られませんが、生活必需品の買い物がてら、是非、是非、是非レンタルDVDを借りて見ていただきたいと思います。

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