「競争」という言葉にはいささか語弊があるが、人生いろんな壁を乗り越えて生きてきたという意味では「障害物競争」といっても過言ではないだろう。

数年前、私が定年退職の退社式で退職辞令を交付された時の心境を話してみたい。
私が勤務していた会社の従業員は約１，４００人。配属された部署が違うと、それこそ入社式と退社式にしか会ったことのない同僚がいる。

見覚えのあった同僚がいないと「あれっ?　あいつどうした?」という声があちこちで上がり、事情があって退職したり、不幸にも他界したケースもある。

その辺の事情について説明する。

〔病気〕

入社した頃は若かったが、さすがに４０年近く勤めると体のいろいろな部分にガタが出てくる。極度の体調不良や原因不明の奇病・難病にかかり途中退社していく者がいた。また、脳卒中や癌などの生活習慣病で他界した者もいた。
私が親しくしていた新婚夫婦の新婦が若くして癌で他界した時はキツかった。
もう辛くて辛くて何ていったらいいのか、残された新郎に会わせる顔がなかった。

〔ギャンブル〕

競輪、競馬、麻雀、パチンコ、スロット・・・いろんなギャンブルに手を出している奴がいた。小遣いの範囲で楽しんでいる内はまだいいのだが、これが依存症になると家庭を崩壊し自分の身も破滅する。
私の部下にもAというギャンブル依存症がいて、Aは自分の後輩Bから金を借りていて、Aが中々金を返さないから困ったBはAの上司である私に相談してきたため発覚した。
私はAを別室に呼んで私の目の前でBに借金を返させた。それを知った同僚から、給料日になると毎月サラ金から電話が入り、Aから居留守を使うよう頼まれていて困るという話も聞いた。
人事部もこの辺の事情を知っていたのか、Aを転々と職場異動させたがサラ金は執拗にAを追いかけて行った。
最後は退職金で借金を返済することになったのか、気が付いたらAは退職していた。
聞くところによるとAは親戚一同からも金を借りていて、もう親族とは絶縁状態になっていたそうだ。
はたして退職金で全額返済出来ただろうか、今ごろ東京湾に沈んでいなければよいのだが。

〔自殺〕
どんな仕事だって辛い時はある。そこから逃げたくなる時もある。逃げてもいいから、どうか自分の命だけは捨てないで欲しい。
それでも真面目で責任感のある奴に限って自殺する。ある者は首を吊り、ある者は車の車内に排気ガスを入れて。
私も周囲の仲間に「死ぬくらいなら診断書を取って療養休暇の申請をしろ」といっていた。療養休暇は最大90日取れるから、その間に復職するか転職するかゆっくり考えてみろと。
そもそも冷静に考えられない状態に陥っているから自殺を考えるのだろうけど、頼むから命を捨てるくらいなら療養休暇を取ってくれ!

〔女性関係〕

職場の同僚に若い女の子が好きな奴がいた。世の男性はほぼ若い女の子が好きなのだが(笑)、彼は度が過ぎていた。
それを知ってか知らずか、酒の席で若い女の子が近づいてきて、その罠に見事にはまってしまったのだ。
そう、その女の子の背後には怖いお兄さんが付いていたのだ。
「俺の女に何をしてくれたんだ!　この落とし前どうしてくれるのか!」
美人局である。一度お金を支払えば何度でも要求してくる。人事部が点々と異動させても何処までもくらいついてくる。もうほとんどの財産はしゃぶりつくされたのではないか。
人間急にモテるなんてことはない。見ず知らずの女性が近づいてきたら用心した方がいい。

〔お酒〕

お酒を飲み過ぎて身体を壊したという話ではなくて・・・。
職場の同僚にAという寂しがり屋がいた。
彼は職場の同僚を酒の席に誘って楽しむことを「交流」だと考え、その同僚を「仲間」だと信じていた。
毎回、酒代を全額支払い、それに対して形式だけのお礼の言葉を「友情」と感じていた。
しかし、残念ながら事実はそうではなかった。
「Aさん、今日もご馳走になって悪いね!」
「いやいや、たいしたことないよ！」
と言っていた直後には、帰りの電車の中で「あいつはおだてればいくらでも出すから!」と取巻きたちはAを嘲笑していた。
そのうちAは借金がかさみ、両親が土地を売って借金を返済したそうだ。

まったく奢る方も奢る方だし、それにまとわりつく取巻きも取巻きである。
これがみな、同じ職場の仲間同士だというのだから恥ずかしい限りである。

友情は金では買えない。金で買った友情は金が無くなった時点で消滅する。

正月そうそう過激なエピソードを語ってしまって申し訳ないが、これは反面教師の話だと思ってご容赦いただきたい。

今、この退職辞令交付式に集まった仲間は、このような障害を飛び越え、あるいは回避して生きてきた人間である。

サラリーマン人生で出世したとか出世できなかったとか、そんなことは大した問題ではない。
家庭を築き、地道にお金を貯え、無事に職務を全うし、少ないながらも退職金を得たあなた!

そう!　あなたが勝者なのだ!

クイーン　We Are The Champions

【和訳】QUEEN - We Are The Champions